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  Ep31 【よその冒険者との交流・キーオ視点】

 

「ほんっとにすっげー有り様だったぜ!」
「あたし…しばらくはお肉料理食べられないかも……」

洞窟の奥から戻ってきた2人が口々にそう言う。

「魔獣の頭をたった一発の魔術で吹き飛ばしてしまわれるなんて…やっぱり、愛の力なんですね!」
「クーペルカさん…けど、本当にトアルディア協会の魔術師さんってすごいんですね」

そしてその話を受け、残った2人も口々にそう言った。

「いえ、僕なんかまったく…」

僕はそんな賑やかな4人と町への帰路に着いていた。

「あ、レイランド! あそこにも魔物が倒れてるわよ」
「おい、ケーベルン、ナイフ貸せ」
「あ、うん」

冒険者の彼が剣士にそう促され、自分の使っていたナイフを彼に渡す。

剣士はナイフを受け取ると帰路の先に横たわる魔物の死体からその一部を切り取り始める。

「なんか…今日は妙に魔物の死体が転がってるな~とは思ってたんだけど…」
「けどまさかさ、この量の魔物をたった1人の冒険者が討伐しただなんて、

 あたし、ちょっと信じられないんだけど」

華美な衣装を身に纏った少女はそう言いながら、僕の腕の中のトナさんに視線を向ける。

「ええ、この人はとてもすごい人ですから」

僕は自分が褒められているわけでもないのにその言葉が嬉しくて思わずまた口元を緩ませた。

「ふーん、そっかぁ……」

そう呟きながらその少女は口元に指先を押し付け、なぜか首を傾げた。

「? ミルハ? どうかしたんですか?」
「え、いやー…何かね、腑に落ちないと言うか…」
「腑に落ちない?」

少女は腕組みをする。 そして、しばらく難しい顔をした後、

「あ! そうよ! なんであんたとその人、別々に行動してたのよ!」
「!」

少女は僕が最も訊かれたくないことを平然と訊いて来た……

「そんなに大事な人なら、なんで最初から一緒に行かないで後から追いかけて行って魔獣討伐に加勢したの?

 例え、こんなにたくさんの魔物を1人で倒せちゃうようなすっごい冒険者でも、

 さすがに魔獣は1人で相手にさせちゃダメでしょ!」
「……」

少女の言葉はすべて正しかった。 正しいからこそ僕はやるせない気持ちになった。

「まぁ…結果的にあんたは間に合って、その人も無傷で生還出来たみたいだから、

 あたしにこんなこと言われたくないかもしれないけど…」

ううん、本当は間に合わなかった…だから、僕はトナさんをあんな目に遭わせてしまった。

けど、だからと言って僕はどうすればよかったのだろう…

「…どうすれば、よかったんでしょう……」
「え?」
「だって、僕…彼とは昨日仲違いをしたとか、言い争いをしたとか…

 そういったことはまったく無かったんです」
「……」
「けれど、今朝目が覚めたら…彼はいなくなっていて……」
「え!?」
「だから、僕は必死に彼を探して……」
「あ、じゃあ、その時にオレたちと…」
「そうです、彼の行く先を少しでも特定出来ないかとルースアンに同行させて頂いて…

 そうしたら、そこで初めて彼が魔獣の討伐依頼を受けていると知ったんです」

僕はトナさんの顔に視線を落とす。

…なぜ、あなたは僕に何も言わずそのようなことをされたのでしょう…

「そっか…なんかごめんね? あたし、そんな事情なんて全然知らなかったのに

 お説教じみたこと言っちゃったね…」
「…いえ、そのようなことは……」
「うん、けどそっか…じゃあ、その人はあんたを巻き込みたくなくて、あえて一人で魔獣討伐に行ったわけね」
「え?」

僕を巻き込みたくない……?

「あんたの話からすると、その人とあんたが出会ったのってつい数日前のことなんでしょ?

 だったら、その人の過去に何があったのか…あんたは知らないんじゃない?」
「……そう、ですね…そういった話はほぼ……」
「じゃあ、その人にとってあの魔獣は因縁の相手だったんでしょ」
「!」
「それでまぁ…これは完全なる憶測だけど、たまたまこの町であんたと出会って、

 さらにたまたまこの町で因縁の魔獣を見つけた。

 そんで、その因縁の魔獣を討伐するためには複数人での討伐が条件で、

 今はたまたまあんたとパーティーを組んでいた…

 だから、討伐依頼を受けることは出来たけどでも私怨にあんたを巻き込みたくはなくて、

 黙ってあんたの元から去ったわけよ」
「……」

そんな私怨に僕を巻き込みたくないだなんて……僕は巻き込んで欲しかった。

「けど、よかったじゃない」
「え?」
「だって、あんたが魔獣を倒したわけだからその人の私怨は1つ無くなったわけでしょ?」
「……」
「まぁ、人間生きてたら恨み事なんて1つだけじゃ済まないかもだけど、

 でもとりあえずはその1つが無くなったわけだから、その人、あんたに感謝してたんじゃない?」
「……」

そうだろうか…トナさんは僕に感謝してくれているのだろうか……?

「え~? けど、オレはイヤだなぁ~」
「は? 突然何よ」
「だって、因縁の相手…しかも、魔獣だろ!? オレだったら自分の手で討伐してぇよ!」
「!」
「……はっ! そんなんだから、あんたはいつまでもお子ちゃまなのよ!」
「なんだと!? 見た目に合わせて、いっつもお子ちゃまぶってるお前には言われたくねぇセリフだな!!」
「はぁ!? 別に合わせてないわよ!」
「まぁまぁ、レイランドもミルハも落ち着いて……」

僕はトナさんもそういうタイプなのではないかと思えてしまって…少し…いや、かなり焦った。

「それで、お二人は今後どうされるんですか?」
「え?」

すると射手の女性が突然、僕にそんなことを訊いて来た。

「今後……?」
「ええ、だってお二人は運命で結ばれた者同士なんですから、もう今後はずっとご一緒なのでしょう?」
「…僕はそのつもりなんですけど……彼の方はどう思っているのか……」
「あら、そうなんですか?」
「はい、だからまずは彼に聞いてみないと……」
「……」

僕がそう言うと、射手の女性はしばし考え込む。

「それでは、その方がもしもあなたとは一緒にいられないと…

 そう仰ったらあなたはその方とお別れするのですか?」
「……そ、それは…」
「そうですよね、お別れするつもりなんてありませんよね?」
「……」
「でしたら! 今後すべきことは1つです!」
「え…?」
「それはですね―――」

その言葉を聞いた瞬間、僕は目からうろこが落ちた。


その後、彼らの護衛のお陰で僕もトナさんも無事町まで戻ることが出来た。

そして、引き続きルースアンまで同行して貰って、換金した報酬の一部を彼らに諸々のお礼として譲った。

本当は換金する前の状態…つまり、彼らが採取した魔物の一部はすべて彼らに譲るつもりでいたのだが、

「オレたちには大金過ぎます!」

とのことだったのでそのようにしたわけだ。

「皆さん、本当にありがとうございました」

ルースアンの待合室で僕は彼らに頭を下げる。

「いえいえ、そんな…オレたちなんか本当に帰りの護衛をしただけですから…」
「そうだよな、その帰りだって魔物一匹とも遭遇しなかったもんな」
「なのにお礼なんか貰っちゃって…逆にこっちが恐縮しちゃう」
「けど、私はあなたのお話が聞けて大変幸せでした…本当にありがとうございます」

僕は顔を上げながら、思わず苦笑いをしてしまった。

「じゃあ、オレたちもう行きますね」
「はい」
「じゃあな! 達者でな!」
「はい」
「まぁ…あたしの知ったこっちゃないけど…でもちゃんとその人に相談はしなさいよね?」
「はい…」
「私は応援してますから!」
「……はい」

彼らは言いたいことをそれぞれ僕に言いながら、そうしてルースアンを出て行った。

「さて、じゃあ、あたしの家に行きましょうか」
「はぁー…また森に戻んないといけないのか……」
「ところでミルハのお家ってここからどのくらい歩くんですか?」
「えー……まぁ、さっきよりは近いわよ…」
「さっきって! 比較対象、ここで一番距離が長ぇ!!」
「まぁまぁ、レイランド……」

外に出たはずなのに彼らの会話がまだこちらに聞こえてくる。

僕は思わずまた苦笑いしたが…そこでふと気付く。

(家……? ……いや、まさかそんなこと…)

そして僕は受付でトナさんの荷物を引き取ると、その足でホテルへと向かった。

ふと仰いだ空はもうすっかり夕暮れ色に染まっている。

  Ep32 【ホテルに戻って・トナ視点】

「……ん……っ」

何だか暖かくて、柔らかくて…くすぐったいその感触にオレは思わず声を上げた。

そして、自分の声に驚いて目を開ける。

「あ、」

すると、目の前にキーオがいた。

けれど、ぼやけた視界がどんどんとはっきりするほどにその目の前のキーオが一切着衣を纏っていないことに気付く。

「……」

そして、自分の体に視線を落とす。

すると、キーオ同様オレの方も一切の着衣を纏っていなかった。

「トナさん! 目を覚まされたんですね!」
「っ!」

けれど、キーオは何のためらいもなく、そのままの状態でオレを抱きしめて来た。

オレはいまいち状況が掴めなくて、本当は抱きしめる前にこの状況に説明が欲しかったのだが、だからと言ってキーオを押し退けることは出来なかった。

だって、心地よくて…

「……」

もう、こうして肌を合わせることなんて出来ないと思っていた。

思っていた…というよりは、本当にそのつもりだった。

けれど…またこうして…その胸に、その腕に抱かれて肌を合わせている…

「! トナさん…」

キーオがオレの涙に気付く。

「ごめんなさい…もしかしてどこか痛かったですか?」
「……っ」

違う、と口に出して言いたかったが、言葉が出なくてオレは首を振る。

キーオがオレの頭に添えていた手で髪を撫で始める。

「大丈夫ですよ…もう、怖いことなんてありません」
「……」
「いえ、もしかしたらまだあるのかもしれませんね…けど、それらは今後も僕がやっつけますから!」
「…っ」

オレは精一杯の力を振り絞って、キーオの顔に自分の顔を近づける。

そして、その唇に唇を重ねた……すると、キーオがゆっくりと体を床に預け、その体の上にオレを抱き留める。

昨晩ほどの激しさはなかったが、それでもお互いの熱をもう一度確かめ合うように深く、何度も口づけを交わす。

「……っ」

そうして、しばらく唇を重ねた後…お互いに呼吸を整えるため、体を離す。

すると、キーオがとても柔らかな笑みを浮かべ、オレの左肩、左腕、左手…そして、左側の脇、脇腹、お尻、太もも、足までをゆっくりと撫で、

「よかった…」

とぽつりと呟いた。

その後、そこがあのホテルのあの部屋に併設された浴場だと気が付いたオレはキーオに全身を丁寧に洗われ、そして丁寧に拭かれ、丁寧に着替えまでして貰い、ベッドへと寝かされた。

なんだか色々な意味でふわふわしていて……ここは本当に現実なのだろうか? なんて考えていたら、浴場からすっかり身なりの整ったキーオが出て来た。

「トナさん、本当に申し訳ないんですけど、」
「?」
「僕、この後少々用事が出来まして…」
「……ん…」
「30分ほど外出しなくてはいけなくなったんです…」
「……ぅん」
「ですが、本当に30分ほどで戻って参りますので、どうかご安心ください」
「……うん」
「…本当は片時も離れたくはないんですけど…」
「……」

おいおい、30分なんて1時間の半分じゃないか…それなのに、何をそんなに切なそうな顔でオレを見るんだ、こいつは…

けど…

「キーオ…」
「! はい、何ですかトナさん!」

オレはまた精一杯力を込めて、左手を布団から出す。

すると、嬉しそうに駆け寄って来たキーオがその手を取る。

「いってらっしゃい……オレ、ちゃんと待ってるから…」
「!」

と、オレが言葉を掛けるとキーオは一瞬ハッとした顔をしたが、その後だんだんと顔をくしゃくしゃにさせて…

「はい、行って来ます…!

 けど、トナさんが待っていて下さるなら僕、20分…いえ、10分ほどで戻って来ます…!」

と泣きながらそんなことを言い出した。

「バカ…せっかく風呂に入ったのに、泣いたら意味ないだろ……」
「ですが、トナさんがあのようなことを仰って下さるので…」
「もう…そもそもお前…そんなに涙もろかったっけ……?」
「いえ、まったくそのようなことは…と言うか今日、人生で初めて泣きました」
「え…」
「ちなみに今のこれは人生4回目の涙です」
「……」
「ちなみに4回とも涙の理由はトナさんがもたらして下さったんですよ」
「……」

オレはちょっと…いや、かなりバツが悪くなってキーオから視線を反らす。

「けど、いいんです。 こうして泣けるってことは僕、自分はちゃんと人間なんだなと感じられるので」
「……」

そう言うとキーオはオレの左手に唇を当て、

「それでは、行って来ますね」

と言い残し、部屋を出て行った。

「……」

そして、残されたオレは…

(はぁー…この感情をどう処理したらいいのか分からん……!)

とベッドの上で熱くなった顔を両手で押さえることしか出来ずにいた。

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