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  Ep19 【ホテル2日目02・トナ視点】 

ベッド横のランプの灯りだけがほんのりと明るさを残した部屋の中、オレはキーオに抱き竦められた状態で再びこいつと唇を合わせていた。

けれど、昨日のようなただ微かに触れ合うような口づけはせず、もう今日は初めからただひたすらにこいつはオレの口の中で舌を好きに掻き回していた。

「ふん……ぅ……」

さすがに今日はちゃんと意識して鼻で呼吸をする…けれど時折、腰の辺りがビリっとするような感覚に襲われて…またそれを忘れてしまいそうになる。

口の端からだらしなく唾液が流れる。

オレはそのことに気付いて口の中のそれを飲み込もうとするが上手く出来ず、苦しくなって思わず舌を尖らせた。

すると、キーオがその舌を唇で啄みそのまま吸い始める。

「ん! んぅ……!」

思わずキーオの胸を手で押し退けて、キーオから逃げ出そうとしてしまった。

けれど、その手を取られて、後頭部も掴まれ、身動きが取れなくなる。

もうキーオの為すがまま…ひたすらに舌を弄ばれてしまい、苦しいのと腰がぞわつくのとでオレの頭は真っ白になってしまった。

「はぁ、あぁ……」

そして、舌を解放された時にはもう腰がぞわぞわしっぱなしで……いつの間にかキーオの胸にすべての体重を掛けてもたれる形になっていた。

すると、キーオはすっかり脱力し切ったオレの両足を右手で抱えると、行為を始める前にすでに着衣を脱ぎ去り、露出していたそこへとそっと左手で触れて来た。

「あ……! ちょっと…待て……!!」

さすがにオレは残された力を振り絞りキーオに抗議の声を上げたが、

「大丈夫です、優しくしますから…」

と、とてもぎらついた目でキーオが返して来た。

「違う! そうじゃない! とりあえず、その手をどけ――あっ!」

今まで誰にも見せなかったし、触れさせたことのなかったその部分……けれど、キーオは何のためらいもなくその秘部へと触れて来る。

「だからぁ……待てって……んん……っ」

キーオが指先に塗ったそれをひたすら丁寧にその周辺へと塗り込む…キーオの指先の熱とぬるっとしたその感触がオレの体をぞわりと震わせる。

おかしい…こんなところ気持ちいいわけがないのに…先ほどの口づけの余韻も抜け切らないまま、オレはまた新たな快楽に襲われる。

「……んっ……」

もう、抗議の声を上げても仕方ない…そう思ったオレは再び声を抑えることに努めた。

でも、抑えることに努めれば務めるほど何かにすがりつきたくて堪らなくなる……けれど、両手はとうにキーオの体にしがみついているし、持ち上げられた両足は行き場を失い、ただ宙に浮いて指をわなわなと震わせているだけだったが今さらそれをどうしようも出来なかった。

だから、せめて…唇でも合わせてくれないかと思ったが、キーオとの顔の距離が少し遠かったため、それも叶わなかった。

だったら、もう…こうするしか…と思ったオレはキーオの体に自分の体を出来るだけ密着させ、胸の先のそれをキーオの体にこすりつけた。

快楽に襲われる箇所を増やせば、この腰の疼きが軽減されるのではないかと思いそのようにしたが、けれど今度は触れられてもいないのに少し膨らんだその部分がもどかしいほどに主張を始める。

「……うぅ……んっ」

どうしよう…もう、自分で触ってしまおうか…けれど、今触ったらすぐに果ててしまいそうで……だったら、この刺激を止めなければ…とは思いながらも体をこすりつけるのをやめられない。

キーオの指もひたすらにその部分をほぐすことに執着し、止めてくれる気配がない。

「んぅ……き、キー…オ……」

オレは声を抑えつつも、不意にそいつの名前を呼んでしまった。

もう完全に無意識だった……けれど、この疼きをどうにかしてくれるのはお前しかいない。

だから、だから……

「あっ!」

すると、キーオがオレを抱えたままゆっくりとベッドに倒れ込んだ。

キーオをオレが組み敷くような体勢になるが、キーオはそのままオレの顔を自分の顔に近づけさせるとそのまま唇を合わせて来た。

そして、オレはその唇に懇願するように舌を触れさせる。

それをキーオが絡め取り、オレの口の中をまた掻き回す。

オレはもうその行為に夢中になり、その間だけ下半身の疼きを忘れられた。

けれど、キーオが再びそこへ指先を当てる。

「んぅ!」

すると今度は秘部の中へと指先をゆっくりと差し込み始めた。

再び訪れたその刺激に…オレは思わず腰を跳ねさせる。

もちろん、オレの意思とは無関係に…その後も腰の震えはとまらない。

「ひぅ……ん……」

中に差し込まれた指がゆっくりとそこを広げるように動いている。

そこに意識を集中してはいけないと思いつつも、普段こんなことに使われることのないそこへの刺激にオレは異常に敏感になっていた。

しかも、いつの間にかオレの唇はキーオの唇から解放され、オレはまたみっともなくキーオの体にすがりついているだけだった。

「トナさん、ここ、気持ちいいですか?」

不意にオレの頭上からキーオが問いかけて来た。

「……っ」

けれど、そんな問いに答える余裕などあるわけもなくオレは必死に声を抑える。

すると、キーオが不意にオレの腰に手を添えた。

「!!」

もう声を抑えていたからとかではなく単純に声にならなかった。

それくらい腰が敏感になっていたのだ。

けれど、キーオはそんなこと知る由もない。

だからそのまま、オレの体をもっといじりやすいようにと体勢を整えた。

「トナさん、もっと奥に指を入れますね」

そう言うとキーオは本当にもっと奥の方へと指を進ませた。

そして細く、長い指が…とにかく中を器用に動き回っているのが分かる……ああ…もう、よりそこへ意識を集中させるようなことはしないでくれ! なんてオレは言い出したくなったが…けれど、

「っ!?」

キーオの指がオレの中の何かに触れた時、未だ少しの膨らみだったそれに強い刺激が走るのを感じた。

「あ……え、あっ!」

キーオの指がそれを軽く…けれど、きゅーっと押している。

それが何の刺激になるのかオレにはまったく理解出来なかったが、けれどそんなオレの意思とは無関係にそれはその刺激に敏感に反応している。

「あ……、まっ…! な、なに……っ! なんで……!」

オレがもう、ほとんどうわごとの様にそう言うとキーオがそれから指を離す。

「トナさん、今僕が押したところは、“前立腺”と言って、」
「ぜ、ぜん……え?」
「男性にしか無い器官で、男性はこれの働きによって陰茎へ刺激を与えられているのだそうです」
「…!?」

こんな時に何を冷静に説明してくれてんだ、こいつは……

「そして、その前立腺と言うのはこうして直腸越しに触れられて、刺激を与えることが出来るんですよ」
「!! あ、ばっ! あ、あ…!」
「だから、男性同士の行為の場合はこうしてお尻の穴を使うんだそうですよ」
「分かった、分かったから! そこ、触るのやめ……!」

オレがもうほとんど懇願するようにそう言うと、キーオはオレの中からゆっくりと指を抜いた。

「!」

そして、自分の体の上に乗っているオレを抱えるとそのままゆっくりベッドに上体を起こした。

「すみません…トナさんがあんまり可愛い反応を下さるのでちょっと…

 いえ、かなり意地悪なことをしました」
「え…?」
「だから、もうちゃんとこの行為を終わらせてしまいますね」
「え?」

そう言うとキーオは今度はオレをベッドに寝かせると昨日と同じようにその上へと覆い被さって来た。

そして、自身の着衣を下げ、硬く、膨らんだそれを露出させる。

(……昨日はあんまり意識してなかったけど…こいつ、でか……)

オレはキーオのそれにちょっとだけ釘づけになっていた。

が、そんなオレの視界をオレの太ももが遮る。

「え?」

気付くとキーオがベッドに膝をついた状態でオレの両足を抱え込みその間へ、そしてオレの上へと自身を重ねた。

「!」

そしてぐっとオレの腰を掴み、オレの足を軽く折り畳ませる。

太ももの間と、そしてオレ自身にキーオの熱が伝わり…掴まれた腰も再びその疼きを思い出す。

「んぅ……っ」

オレが思わず腰をよがらせると、キーオはそれを合図にしたかのように腰を動かし始めた。

ゆっくりと…けれど、決してもどかしくない早さで的確に刺激を与えて来る。

オレは必死に両手で口を抑えて、その刺激が口から漏れ出さないように耐えた。

けれど、視線だけはしっかりキーオを捉える。

目をつむり、顔にも体にもじわりと汗を浮かべて、赤く長い髪が動きに合わせて揺れている。

そして、夢中になって腰を動かさせているのが……他の誰でもない、自分なんだなと思うとやけにこいつが愛おしく思えた……

けれど、もうこいつと過ごせるのは後……

  Ep20 【その日の深夜・キーオ視点】

「うぅー……なんか腰がぞわぞわしっぱなしだぁ……」

行為の後一緒にお風呂に入り、寝支度を整え、ベッドに横になり、後はもう眠るだけ……という段階になってトナさんがそんなことを言って来た。

「え?」

僕は思わず間の抜けた声を出す。

「だから…なんか、こうやって落ち着くと腰がぞわぞわするんだって……」

僕の方を向いてトナさんがまたそんなことを言って来た。

「……完全には刺激が抜け切れていない…ということでしょうか?」
「もう…何かよく分かんねぇけど、このままじゃ眠れねぇよ……!」

けれど、もう一度行為を行うのは……体に相当な負担を掛けるだろう。

「……」

ベッドから起き上がり、僕は自分の荷物を置いた場所へと向かう。

そして荷物の中から目当ての物を探り出すと、再びベッドへ。

「トナさん、これを貸してあげます」
「? 何だ、これ」
「睡眠を促進してくれる香り瓶です」
「は?」
「以前、僕が使用していたものなんですけど…よく効きますよ」
「……」

ベッド横のランプに照らされたトナさんが驚きの眼差しで僕を見ていた。

「ですから、ちゃんと効きますよ。 僕が保証しますから」
「いや、そうじゃなくて…お前、これを使わないと眠れない時期があったのか?」
「はい、そうですね…とは言っても、トナさんと出会うその前日まで使ってましたよ」
「は!?」
「けど、トナさんとこうして同じお布団で寝るようになってからは全然使ってませんけど」
「……」

どこかバツが悪そうな表情でトナさんが僕から視線を反らす。

「…なぁ、キーオ……」
「はい?」
「何でさっき、オレを抱かなかったんだよ……」
「え?」
「だって、後1日なんだぞ…? さっきの機会を逃したらもうオレのこと抱けないかもしれないんだぞ?」
「……」

そう限定させているのはあくまでトナさんの方なんですけどね…

「…酷いこと、言いますね」
「……」
「けど、いいんです。 僕は本当は今日、あなたを抱くつもりはなかったんです」
「え?」
「あなたの反応が可愛くてつい意地悪をしたのは事実ですが…」
「……」
「けれど、あなたがああいった行為についてどのくらい知識をお持ちなのか、僕はそれが知りたかったんです」
「知識?」
「そうです。 だから、僕なりに色々と試させて頂きました」
「…随分なこと言うな……」
「ええ、そうですね…けど、何も知らないあなたを抱くのは少し…いえ、とても怖くて……」
「……」

トナさんが布団を口元まで引き上げ、僕をどこか恨めしそうな顔で見つめて来る。

そんな顔をされると実はあなたの方が僕に抱かれたがっているのでは? なんて口走ってしまいそうになるからやめて欲しい…

「トナさんは男性同士の行為の知識ってどこで身に付けたんですか?」
「え?」
「肛門に陰茎を挿入するのはご存知だったじゃないですか」
「こ…! ……っ」
「僕には話し辛いことですか?」

僕がそう言うとトナさんは布団を目深に被り、逡巡しているようだった。 けれど…

「昔の…討伐隊の仲間が教えてくれたんだよ…」

と、どこか恥ずかしそうな声で教えてくれた。

「討伐隊の?」
「そう…」

布団から顔を出しトナさんがこちらを見つめる。

「あの…昨日さ、オレが一番最初に入った討伐隊のこと…少しだけ話したろ?」
「ええ」
「その中の冒険者の一人が…気のいい人でさ……」
「はい」
「報酬が貰えると、その討伐隊の中で一番若かったオレを色んなところに連れて行ってくれたんだよ」
「はぁ…」

僕は何か…背筋がヒヤリとするような感覚を覚える。

けれど、いや待て…彼はつい昨日こういった行為は初めてだと言っていたじゃないか。

だから、まさかその冒険者が初めての相手だったりはしないとは思う…けれど、しかし……

「酒場とか武器屋とか防具屋…あと、雑貨屋とかさ」
「! ええ、はい」
「そんで歓楽街とか…そういうサービスを…してくれるお店、とか……さ」
「!?」

僕は思わずベッドから跳ね起きる。

「わ! 何だよ!」
「と、と、トナさん! まさか、そんなお店をご利用されていたんですか……!?」
「えぇ!? あ、違う! そうじゃない! オレは中には入らなかったよ!」
「え?」
「さすがに成人になりたての頃だったし…

 一回だけこういうお店があるんだぜって店先で紹介されただけだよ…」
「……そ、そうなんですね! あ、えーと…取り乱してしまってすみません…」

僕はいそいそと布団に入り直す。

「けど、そういうお店があるってことはそこら辺の治安ってあんまりよくなくてな…」
「ええ」
「だから、そこでオレ…見ちゃったんだよ」
「?」
「路地裏で、男同士がそういうことしてる場面を…」
「!」

いくら治安が悪くても人通りのある場所でなんてことを…!

「けど、さすがにじっくり観察したわけじゃねぇぞ? でも、何か…

 下半身をくっつけて何かしてるのは見えちまったし何してたんだろうなぁって疑問には思ってよ…」
「……」
「だから、その人に訊いたんだよ」
「まぁ、それは当然そうなりますよね…そこにトナさんを連れて行ったのは、その方なんですから」
「うん、そうだよな」

トナさんが僕から視線を外し、ぼんやりと天井を見つめながら一呼吸を置いた。

「そしたらさ…その人に“それはケツの穴にち○ぽをツッコんでたんだよ!”って言われて…」
「……っ」

なるほど、トナさん。 一呼吸を置かれたのはそんな言葉を発することにためらいがあったからなんですね…

それにしてもその方…あまりに言い方が、言葉の選び方が残念過ぎます……

「だから、オレは男同士の行為ってのは、そういうことするもんなんだなって…その時に知ったんだよ」
「なるほど…ですからトナさんはその際にどういった物が必要か、

 どういった体の仕組みで快楽を得るのか…といったことまではご存知なかったんですね」
「いや、まぁ…そうなんだけどよ…」
「?」
「逆にお前はそんな知識どこで身に付けたんだよ…」
「僕ですか?」
「おぅ…」

僕も思わずトナさんから視線を外して天井を見上げた。

別に…本当のことを話してしまってもいいのだけれど…でも、彼はどのように感じるのだろうか…

そんなことを考えるとそれはかなり憚られた。

「僕、本を読むのが好きなので…」
「あぁ」
「様々な本を読んでいると、そういった内容の本に行き当たることもあるんですよ」
「そっか、なるほどね…」

うん、嘘はついていない。 トナさんも納得されているようだし…

けれど、そんな本がどこにあったのか…それはとても話せなかった。

「けれど、実践的なあれこれについてはまったく自信が無かったので…先ほどの指南書を購入したんですよ」
「ふーん、そっかぁ…あーあ、やっぱ本を読むって大事なことなんだなぁ~…」

そんなことを言いながらトナさんが大きなあくびをした。

「トナさんはあまり本は読まれないんですか?」
「あまりって言うか…生まれてこの方読んだことないかもな……」
「そうなんですか?」
「うん、だって…農村の生まれだからさ……そういう知識を身に付ける前にまず…家の仕事をてつだ……」

彼の言葉がだんだんと小さくなって行き、そして言い終わる前に止まった。

彼の顔をじっくりと見つめる…どうやら腰の違和感はとうに無くなっていたようだ。

それくらいあどけない顔で眠る彼が僕はどうしようもなく愛おしく感じる。

結局使われることのなかった香り瓶をサイドテーブルに置き、僕は彼に寄り添うように布団にもぐる。

そして、香り瓶なんかよりもいい匂いのする彼を抱きしめ、今日も僕は安らかな眠りについた。

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