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  Ep15 【その日の深夜・トナ視点】

薄暗い部屋の中、オレはベッドの上に上体を起こし、すやすやと寝息を立てるキーオの寝顔を眺めていた。

「……」

先ほどまでオレはこいつと肌を合わせ、本当にさっきまでオレはこいつと一緒に風呂に入っていた。

そして、そのどちらともこいつはとにかくオレを大事に扱うので、こいつ自身の欲望なんて微塵も無いのではないかとオレは思ってしまうほどだった…

本当は行為の最中、首に噛みつかれたり、傷痕を抉られたりして、血を飲まれるんじゃないかと思っていた。

けれど、全然そんなことはなくて…こいつはひたすらにオレが反応を示す部分に繰り返し優しく触れて来るだけだった。

だから、オレが……をしたらこの行為が終わるんだろうな…なんて行為中はぼんやり思っていた。

でも、こいつもあんなことでちゃんと……

(こんな傷痕だらけの体に興奮出来るなんて…よほど変わったヤツなんだな……)

けれどそんな相手に体を許し、あまつさえその行為によがったわけだから…オレもよほど変わったヤツなのだろう。

「……」

無意識にオレは脇腹の傷痕部分に手を当てる。

行為中、こいつはなぜかこの傷痕に異様に執着していた…もしかしたら、何か感じることでもあったのだろうか。

(まぁ……そういうこともあるのかもな…)

けれど、オレはそのことをキーオに訊くことは出来なかった。

  Ep16 【町にて・トナ視点】

「ふっ!」

握った剣を勢いよく横に振り、オレは残りの魔物を斬り捨てた。

力なく地面に横たわるそいつを見届けてオレは剣で空を切り、そいつらの血を剣から払う。

そして、もうピクリとも動かなくなったそいつらからオレはしっぽを切り取り始める。

「ルースアンで報酬を頂く際はそうやって魔物の一部を提出するんですね」

後方で待機していたキーオがそんなことを言いながらオレの側にやって来る。

「そう、討伐数をかさ増しして報告されるのを防ぐためにな」
「なるほど…まぁ、確かに合理的とは思いますが、それでもあまり気分のいいものではないですね」
「そうか? 世の中、どんな悪いこと考えてるヤツがいたもんだか分かったもんじゃねぇからよ、

 こういう予防策ってのはすっげー大事なもんだろ」
「はい……そうですよね…」

何て会話をしながらキーオもそいつらからしっぽを切り取り始める。

「…お前、そのナイフはそうやって使っていいものなのか?」
「え? ええ、特に支障はありませんよ?」
「そ、そうか…」

しかし、キーオはそう言ったものの…キーオが魔術を使用する際に用いる銀色のナイフ…それがどんどんと魔物の毛や血や脂で汚れて行くのでオレは何だか気が気じゃなかった。

(まぁ…手入れはするんだろうから、まぁ…)

けど、魔術師ってヤツはやっぱりよく分かんねぇな…なんてオレは少し思った。

それから、オレとキーオは森から町へ戻るとそこで一旦別れましょうとキーオから提案された。

「え? パーティー解消?」
「違います! ただほんの少しの間、別行動をさせて下さいって言ったんです!」
「ああ、なんだ…そういうことか」
「僕、先ほどちゃんと一旦って言いましたよね!?」
「うん、言ったと思う…」

そんなやりとりの後、キーオはホテルのある町…つまりこの町の隣町へと姿を消した。

(まぁ、魔術師は向こうの町の方が何かと利用しやすいんだろうな…)

そう思いながらオレはそのままこちらの町に残り、“冒険者支援協会ルースアン”へと向かった。

先ほど切り取ったしっぽを換金所へ持ち込む。

すると、そこそこの報酬金が支払われ、オレはまたキーオに何か礼をしないとな…と思った。

それから、協会内の依頼書を掲示する掲示板へと向かう。

(そういえば、最近はあんまり依頼を受けてなかったんだよな…)

なんて思いながら、ざっとそれらに目を通す。

依頼の内容は大抵その土地の町人や村人からの“魔物から素材を採取して来て欲しい”といったものばかりだ。

これらの依頼を受け、見事成功させた場合は魔物討伐の報酬をルースアンから、そして依頼の成功報酬をその依頼人から受け取れる仕組みになっている。

そのため、特に金に困っている駆け出しの冒険者なんかはこの掲示板から依頼を受け、少しでも多くの稼ぎを得ているわけだ。

昔のオレがそうだったように…

「……」

オレはふと掲示板の隅にまるで少しずつ時間をかけ、どんどんとそこへ追いやられて行ったような依頼書を見つけた。

少しだけ上体を屈めてその依頼書を読む。

「……これは…」

オレはその依頼書を手に取り、受付へと向かった。


すっかり日が傾いて空はもう夕暮れを通り越してだんだんと夜になりつつある。

その中をオレは隣町の噴水広場であいつを待っていた。

人通りもまばらで街灯に次々と火が灯り始める…いつもなら、今頃あちらの町の宿にでも宿泊して荷物の整理でも行っているところだろうか。

「……」

そう思ったら妙なやるせなさに襲われて……オレは広場の街灯に寄り掛かりながら、虚空を見つめる。

(このまま、夜になってもあいつは来なかったりして…)

町を散策する際に手袋を外した両手をこすり合わせて、そこへ息を吐きかける。

(あーあ…あいつを待っとかねぇと部屋にも戻れねぇなんて……

 やっぱり、パーティーなんか組むもんじゃねぇな…)

ふと指先が自分の唇に当たり、その温かさにそのまま指を押し付ける。

(…唇あったけぇな……けど、あいつの唇の方がもっと温かったかも……)

なんてとても自然に考えてしまって、オレは思わず両手で口を覆う。

(ば、ば…っ!! オレ、今何を……!)

と慌てていると前方から、

「トナさーーーん!」

なんてとても大きな声であいつがオレの名前を呼びながらこちらに駆けて来た。

「……」
「あ! トナさん! よかったぁー…!」

そうしてオレを見つけると、キーオはオレの目の前まで来てそのままガクリと体を折り曲げた。

「はぁ、はぁ…」
「…何もそんなに急いで来なくったってよかったのによ…」

とても息苦しそうなそいつを見てオレはそんなことを言った。 けれど、

「いえ、だって…とても待たせてしまっているという自覚はありましたし、何より…」
「?」
「僕が少しでも早くあなたと再会したかったんです」
「!」

そう言いながらそいつはオレの両手をその大きくて温かな手で包みこんで来た。

「すみません、やっぱりとても長い時間待ってて下さったんですよね」
「……まぁ、多少は…」
「すみません、次は……あ、いえ…えっと、ホテルに戻りましょうか」
「あ、ああ…」

キーオがオレの手を引いて歩き出す。

本当はオレをこんなに待たせてどこで何をしてたんだ!

なんて咎めるつもりでいたが、オレにそんなことする権利は無いよな…と思い、黙ってキーオに従う。

何もこいつがあんなに急いで駆け寄って来たからとか、あんなことを言うからとか、そんな理由で咎めないわけではない…決して。

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